「何でもあり」を体現する混沌と崇高さを併せ持つ次世代のマスロックバンド!!
Z世代なんて言葉を2020年からよく聞くようになったのように思える。
改めてZ世代とは1990年代後半から2000年代終盤・2010年代序盤に生まれた世代の人間を指し、彼らは物心がついたときからデジタル機器に囲まれて育ったデジタルネイティブ世代だという。
ロックの世界においてZ世代のバンドが世に出るのは個人的に非常に興味深い!
以前のロックミュージシャンの青春時代はCDやレコードで音楽を聴く世代であり、音楽に関する情報収集も知り合いや雑誌を使っていた。
だがZ世代はサブスクで手軽に世代・ジャンル問わない幅広い音楽を容易に聞くことも出来たし、より良い音楽を求める手段も多様化して以前よりもより良いミュージシャンが育つ環境にいるのだ。
それゆえZ世代のロックバンドはロックと言うジャンルをさらに進化させてくれるのではと期待してしまう。
そんな期待に応えてくれそうなバンドが今回紹介するBlack Midi(ブラック・ミディ)。
彼ら4人はイギリスのロンドンにある芸術専門学校BRIT Schoolで知り合い、当校を卒業した2017年に正式に結成したロックバンド。
(※BRIT Schoolはアデルやエド・シーランなどの大物を輩出している名門音楽学校!
)
彼らはマスロック、プログレ、ポスト パンク、フリージャズなどのジャンルを融合させ、なおかつ難解なジャンルをイージーリスナーであってもとっつきやすい形に昇華させている。
だがバンドはZ世代であるのにもかかわらずSNSでの発言も極力控えており、インタビューもほとんど受けていない...
そんな謎深き新世代バンドを今回は紹介!!
おすすめ曲
ducter
『Schlagenheim』(1stアルバム/2019年)、収録曲。
6分以上もある長い曲であるが、同じフレーズを繰り返すことが多く人によっては飽きてしまうかもしれない。
しかしただ繰り返すだけでなくテンポやサウンドを徐々にリスナーの気持ちを高ぶらせるように変化させており、幾何学的かつクラシックのような緻密さを感じさせる。
曲名の『ducter』とは指揮者と言う意味であり、演奏者と指揮者の敵対関係について歌った曲と言われている。
ボーカルのスタイルもThe Fallのようなスポークンワードに近い歌唱法が特徴的。
crow’s perch
アルバム未収録のシングル曲。
楽曲全体の印象としては変則的なリズム変化と激しさに重点を置いたような雰囲気!
ベースラインとベースサウンドの使い分けが個人的に好きな楽曲!!
PVは映像の切り替えが激しくてカオスなため、部屋を明るくして離れてみる必要がある...
曲名の『crow’s perch』とは世界的人気を誇るRPGゲーム『witcher』シリーズに出てくる町の名前。
曲名の由来が本当にZ世代らしい...
John L
『Cavalcade』(2ndアルバム/2021年)、収録曲。
カオスと無音のアクセントが光る彼らの傑作!!
爆発的なドラミングに地を這うようなヘヴィかつドライブ感あふれるベースラインに凶暴なホーセクションが乗っかる!
疾走感と緩急が癖になる!!
曲調としてはキングクリムゾンのアルバム『Discipline』を彷彿させるようなスリリングな展開が持ち味!!
Slow
『Cavalcade』(2ndアルバム/2021年)、収録曲。
曲に反して全くスローではない。
むしろハイテンポだ!
タイトなサウンドであり、どこかジャズやブルースの雰囲気を醸し出す。
曲全体でボーカルは控えめだが、クールな曲調から徐々にボルテージを上げていく様は世界の終焉を感じさせる。
Welcome to Hell
『Hellfire』(3rdアルバム/2022年)、収録曲。
Black Midiの中では比較的聞きやすく、また程よいカオス感も楽しめる、まさしく入門編にふさわしい曲!!
MVは2Dと3Dを行き来する複雑なアニメーションであり視覚的にも楽しめる!!
ギターリフのポップさはBlack Midiの中でも随一。
展開の多さもすさまじく、飽きさせないどころか逆にリスナーがついていけるかどうか怪しいレベルの怒号の展開を楽しませてくれる!
ポップではあるが油断して聞いていると置いていかれるかも...
Sugar/Tzu
『Hellfire』(3rdアルバム/2022年)、収録曲。
個人的にBlack Midiで一番好きな曲!
沈美的なジャズの雰囲気で曲が始まると思いきや、急に『熊蜂の飛行』を彷彿させるような音の嵐が吹き荒れる!!
この曲はバンドのギター/ボーカルのジョーディがボクシングが好きであることと、スポーツは「音楽を聴くスリルに最も近いもの」であると感じたことをきっかけに製作されたとのこと。
確かな演奏技術の高さから生み出されるむき出しの暴力性というものを感じるため、この曲にはいつも圧倒される。
メディア雑誌『The Fader』はこの曲を『2022年のベストソング100』にて第30位にリストアップした!
おすすめアルバム
『Schlagenheim』(1stアルバム/2019年)
圧倒的な演奏技術とオリジナリティー溢れる不気味な衝撃のデビュー怪作!!
ジャズが土台にあるようなアルバムであり、アルバム収録曲のほとんどを即興のジャムセッションによって制作したと言われている。
そのためカオスなサウンド・メロディ・展開が多いが、ある種の秩序も感じる。
2021年のマーキュリー賞にてアルバム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされた。
『Cavalcade』(2ndアルバム/2021年)
前作よりもさらに怪しく!さらに複雑化した新世代プログレッシブロックを体現した傑作!!
衝撃的な前作から2年後に発表したアルバム!
しかし即興のジャムセッションによって制作した前作と打って変わって、今作はより構成を意識した複雑な楽曲づくりに取り組んだ!
またツアーメンバーとして参加していたサックス奏者カイディ・アキンニビとキーボード奏者のセス・エヴァンスをレコーディング・メンバーに加えたことで前作よりも幅広い表現が目立つ。
ピッチフォークが選ぶ『2021 年のベストアルバム50』にて第23位にランクイン!
『Hellfire』(3rdアルバム/2022年)
ホーンセクションを土台に作られた凶暴なアンサンブルが目立つアルバム!!
本作は1stアルバム『Schlagenheim』同様にジャムセッションを中心とした楽曲制作に戻し、よりパワーアップした凶暴なアンサンブルを発揮!!
最大の特徴としてはファンクとハードコアを組み合わせたかのようなノリの良い爆発力を魅せる!
またキャバレー音楽、カントリー、フラメンコ、ミュージカルなどの幅広い音楽を取り入れている。
前作以前は同じフレーズを繰り返すパターンがいくつかあったが、本作ではその傾向は少なくなりよりアバンギャルドな展開を楽しめる作品!!
形容するなら狂気のカーニバルミュージック!!
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