オリジナルが1つもないのがオリジナル?!音楽制作の根底を覆した革命的集団!!
「オリジナルで作曲するの定義って何?」
と、ふと考えたりする。
今だとサンプリング(他の誰かの曲のフレーズを引用する手法)を使っても、自分の歌声やラップを乗せればオリジナルと認められる。
でも昔はサンプリングに対しての風当たりがきつくてオリジナルとは認められなかった。
そもそもサンプリングを使用せずに作曲しても、「あのフレーズ・メロディが○○に似ている!」とか言われてオリジナルか否かが論争が起こる。
人は何かしらにインスピレーションを受けて物を作る生き物である以上、完璧なオリジナルなんてものは存在しないのでは?
そんな議論の根底を覆す音楽を2000年に発表して、全世界のアーティスト・音楽評論家たちの度肝を抜いたオーストラリア出身のグループがいた。
その名もThe Avalanches(ジ・アヴァランチーズ)!!
彼らの音楽はプランダーフォニックス(Plunderphonics)というジャンル。
全く聞き馴染みがない言葉だと思うが、要するに楽曲のサウンド全てがサンプリングであり一つもオリジナルの箇所がない音楽のこと!
...それってただの盗作じゃ?って思う人がいるかもしれない
しかし彼らは1曲4分くらいの曲を作るのに100曲以上のサンプリングを使用する。
そう、サンプリングが多すぎて元ネタを知るのが困難!もはやオリジナルの領域に達してしまったのだ!
他人の作った音楽をつなぎ合わせすぎた結果オリジナルのようにしか聞こえなくなったという奇跡的矛盾を生み出した音楽界のコロンブスの卵、The Avalanches(ジ・アヴァランチーズ)を紹介!!
プランダーフォニックス(Plunderphonics)って何?
先ほどプランダーフォニックス(Plunderphonics)というジャンルは一切オリジナルの箇所がない音楽のことだと説明したが、このジャンルはThe Avalanchesが最初にやったものでない。
明確にこのジャンルの名前と定義を発表したのは、現代音楽の作曲家ジョン・オズワルド(John Oswald)が提唱した手法である。
彼は楽曲のオリジナリティという概念への挑戦という意味で1985年にプランダーフォニックス(Plunderphonics)を提唱して、上記動画にある「DAB」を発表!
「DAB」はMicheal Jacksonの名曲『Bad』を細かく分解してランダムに並び替えて原曲と似ても似つかない曲へと昇華した実験音楽であった。
また彼以外にも1961年に現代音楽家ジェームス・テニーがエルヴィス・プレスリーに代表曲『Blue Suede Shoes』の音源を魔改造した『Collage #1 (“Blue Suede”)』を発表したり
世界で最も謎な音楽グループと呼ばれているレジデンツ(The Residents)が1977年にビートルズのあらゆる音源をつなぎ合わせた実験曲『Beyond the Valley of a Day in the Life』を発表していたりとこのジャンルの先駆者と呼べる人はたくさんいた。
しかし...それら楽曲はどれも実験の粋から出ておらず、楽曲と楽曲のつなぎ目が不自然であることから、「無理やり曲として成立させました」という違和感が残る楽曲しかなかった。
しかしそれは当たり前であり、サウンドもテンポも音質も違う曲を何個も違和感なくつなぎ合わせるなんて不可能に近く、治療の時に別の血液型を輸血するくらいの暴挙だと思う。
だがThe Avalanches(ジ・アヴァランチーズ)は違う!
違和感がなさすぎる!!
実際100曲近くの音源から曲を構成しているのだが、それらが見事に調和していることから1つのオリジナルの曲にしか聞こえない!
まるで天才外科医が傷跡が見えないくらい見事に縫合手術をしているように!
そんな彼らの楽曲を紹介!!
おすすめ曲
Since I Left You
『Since I Left You』(1stアルバム/2000年)、収録曲。
メインのボーカル部分は1968年にドゥーワップグループのThe Main Attractionが発表した『Everyday』という曲からサンプリングしている。
曲調は夏の雲のような爽やかで浮遊感のあるサイケデリックなダンスミュージック!!
またミュージックビデオも凝っていて面白い。
内容は白黒の世界で生きる炭鉱夫2人が地下からダンススタジオに出ると、画面はカラフルになって炭鉱夫1人のみが元気よく踊りだすというもの。
元気よく踊っていた炭鉱夫はダンススタジオにいたバレリーナと恋に落ちカラフルな世界に居続けるが、何もしていなかった炭鉱夫は白黒の世界に戻ってしまうという人生を考えさせる構成となっている。
このMVは2001年のヨーロッパMTVアワードで最優秀ミュージックビデオ賞を受賞した!
またピッチフォークは「2000年代のトップ50ミュージックビデオ」でこの作品を第4位に選んでいる!
Frontier Psychiatrist
『Since I Left You』(1stアルバム/2000年)、収録曲。
タイトルを直訳すると『最先端の精神科医』!
この曲はあらゆるコメディアンのセリフやコメディ映画、ドキュメンタリー映画のセリフをサンプリングして作られた実験曲であり、不登校のデクスターと呼ばれる子供に対してあらゆる治療と罵倒を繰り返すという内容。
またこの楽曲のMVも非常に評価が高く、他でさえカオスな内容である歌詞の内容を昔のコメディ番組のスタジオ風に忠実に再現した映像が見るものを良い意味でも悪い意味でも揺さぶってくる。
このMVはイギリスで2002年に開催されたラッシュズソーホー ショートフィルムフェスティバルのベストミュージックビデオ部門で2位に選ばれた。
またピッチフォークは「2000年代のトップ50ミュージックビデオ」でこの作品を第19位に選んでいる!
Because I’m Me
『Wildflower』(2ndアルバム/2016年)、収録曲。
R&Bの陽気な要素のみを抽出して結晶化したような楽曲!
ボーカルパートは主にHoney Coneの楽曲『Want Ads』(1971)からサンプリングしている。
結晶として固めるにあたってアメリカンポップスのようなドリーミーな浮遊感溢れるサウンドに変換している!
70年代のディスコサウンドを彷彿させる誰もが踊れるダンスナンバーとなっている。
Frankie Sinatra
『Wildflower』(2ndアルバム/2016年)、収録曲。
カリプソ歌手のウィルモス・フーディーニの楽曲『Bobby Sox Idol』をメインにサンプリングしている。
個人的には怪しい中南米のサーカスのような音楽のように感じたが、本人たちは「自分たちらしさに緩いロックの要素を合わせた」ものらしい。
MVも奇妙であり、ある街で売られているアイスクリームに幻覚作用があり、住人たちが光る幻覚を見て倒れていくというもの。
The Noisy Eater
『Wildflower』(2ndアルバム/2016年)、収録曲。
アメリカの喜劇スターであるジェリー・ルイスのネタである「The Noisy Eater」からインスピレーションを受けた曲である。
だがいきなりセサミストリートのクッキーモンスターの声から始まり、途中から子供たちの声でBeatlesの『Come Together』が流れるというカオスっぷり!
The Divine Chord
『We Will Always Love You』(3rdアルバム/2020年)、収録曲。
The Avalanchesは古い音源を多数引用することが多いことから時空の奥深さを感じることが多いが、この楽曲では宇宙空間的広さと神秘性を感じることができる。
とは言っても宇宙を冒険させてくれるような音楽ではなく、地上で夜空を見上げながらその広大さに胸を打たれるような気持ちにさせてくれる。
この楽曲ではエレクトロロックバンドのMGMTと元The Smithsのジョニー・マーが参加している。
おすすめアルバム
『Since I Left You』(1stアルバム/2000年)
彼らのデビューアルバムであり全世界に衝撃を与えた怪作!!
元々The Avalanchesは1994年に結成されたアラーム115というバンドから派生されたグループであり、アラーム115は当初はThe FallやDrive Like Jehuから影響を受けていたノイズパンクバンドであった。
1995年にアラーム115が解散したため、ロビー・チャターとトニー・ディ・ブラシが中古レコードを大量に購入したことがきっかけでプランダーフォニックス(Plunderphonics)に没頭する。
その結果2000年に『Since I Left You』を発表して世界に衝撃を与えた!
サンプリングの量が膨大であり3500個以上使用していたと言われている。
しかし驚くべきところはサンプリングの量ではなくその使い方!
通常はサンプリング元がわかるほどの長さを使用しているが、The Avalanchesは元がわからないくらい短いサンプリングを詰めこみ全く新しいサウンドを紡ぎだした。
既存の楽曲を使用することで並外れたサウンドを生み出すというサンプリングの真骨頂を体現した。
UKアルバムチャートで8位を記録!
USダンス/エレクトロニックアルバム・チャートで10位を記録!
ローリングストーン誌『オーストラリアの歴代アルバムベスト200』にて第8位にランクイン!
『Wildflower』(2ndアルバム/2016年)
16年の沈黙の末に発表された皆の期待を裏切らない名盤!!
2000年に『Since I Left You』(1stアルバム/2000年)をリリースして鮮烈なデビューを飾ったThe Avalanchesだが、デビュー以降数々の苦難に直面した...
そもそも彼らの楽曲は1000曲以上もの既存曲を組み合わせて作曲しているため、権利元へ使用許諾を得るのが非常に困難ゆえに作曲にも時間がかかる。
さらに作曲の要であるロビー・チャターは自己免疫疾患を患い、3年間も音楽制作ができなくなった。
そんな苦境の中16年の時を経て『Wildflower』(2ndアルバム/2016年)をリリースした。
このアルバムのテーマは「オーストラリアという広大な土地を持つ国」と「ロードトリップ」を掛け合わせたコンセプトアルバム!
The Avalanchesのメンバー曰く「The Beach Boysのような幸せと悲しみの中間を行き来する音楽」を追求したそうだ。
新しさ、子供の遊び心、物憂げな悲しみなど前作の素晴らしさと制作段階での苦難が全て詰め込まれた傑作!
個人的に一番好きなThe Avalanchesのアルバム!!
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