インダストリアルロックをメインストリームにのし上げた功労者
インダストリアル・ミュージック、それは工場的な無機質かつ激しいサウンドを用いて機械の騒音と工場の雰囲気を模倣するように設計された音楽。
その歴史は意外と長いもので、1942年にファーディ・グローフェというクラシック出身の作曲家が4足の靴、2本のほうき、機関車の鐘、ドリル、コンプレッサーを使って演奏したのが始まりと言われている。
その後スロッビング・グリッスル(Throbbing Gristle)やKilling Joke、Ministryなどメジャーシーンで活躍するインダストリアルバンドが出てくる。
でもこのジャンルの中で一番の商業的成功を得たのはNine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)であろう。
Nine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)は実質トレント・レズナーのソロプロジェクトであり、アルバムごとにメンバーを変えている。
(※でも最近になってようやく正式メンバーとしてアッティカス・ロスが加わった。)
トレント・レズナーはそれまでアンダーグラウンドでしか目立ていなかったインダストリアルロックをより緻密なサウンドを構成し、過激なライブパフォーマンス、カッコたる内省的な世界観を打ち出したことでオーバーグラウンドに持ち上げた。
その功績は昔から高く評価されており何度もグラミー賞を受賞・ノミネートし、Linkin Parkにも多大な影響を与えている。
そんなNine Inch Nailsの功績を彼の音楽と共に紹介する。
おすすめ曲
Head Like A Hole
1stアルバム『Pretty Hate Machine』(1989年)収録曲、シングルカット曲。
インダストリアルロックとエレクトロニックのちょうど間のようなダンスミュージック。
ドラムビートはQueenの曲「Body Language」からサンプリングしている。
USオルタナティブエアプレイで28位を記録。
KornやDevo、マイリーサイラスがこの曲をカバーしている。
Down In It
1stアルバム『Pretty Hate Machine』(1989年)収録曲、シングルカット曲。
テクノ風のインダストリアルロックであり、歌い方はヒップホップに近い感じの楽曲。
USオルタナティブエアプレイで16位を記録。
Wish
EP『Broken』収録曲、シングルカット曲。
Nine Inch Nailsの初期の名曲!!
従来リズム重視のインダストリアルロックに激しさと疾走感をもたらしたのは大きな発明であった。
USビルボードホットチャートで25位を記録。
また1993年のグラミー賞にて最優秀メタルパフォーマンス部門にノミネートされた。
Linkin Park Cover
完全に自分たちのものにしているという感じの名カバー!
でもLinkin ParkそのものがNine Inch Nailsから多大な影響を受けているため、自然にカバーできるのはなんら不思議でないかもしれない。
March Of The Pigs
2ndアルバム『The Downward Spiral』(2ndアルバム/1994年)収録曲、シングルカット曲。
ぶち壊れた激しいミニマルミュージックって感じ。
途中にメランコリックなピアノとボーカルだけのパートが挟まるが、何事もなかったこのようにまたぶち上げる!!
USビルボードホットチャートで59位を記録。
Closer
2ndアルバム『The Downward Spiral』(2ndアルバム/1994年)収録曲、シングルカット曲。
自己嫌悪や執着などがテーマになっている。
ミドルテンポな感じでファンクな雰囲気が漂うダンスチューン。
MVの中で「猿を十字架にかける」シーンがあるが、当時このシーンが問題視された。現在YouTubeでも視聴できるが年齢制限がかかっている。
USビルボードホットチャートで41位を記録。
USオルタナティブエアプレイで11位を記録。
ピッチフォークが発表した「90年代の名曲トップ200」にて42位にランクイン。
Hurt
2ndアルバム『The Downward Spiral』(2ndアルバム/1994年)収録曲、シングルカット曲。
Nine Inch Nailsの中では異色のバラードソング。
アルバムのラストを飾る名曲であり、薬物依存によるうつ状態や自傷行為について言及された楽曲。
USオルタナティブエアプレイで8位を記録。
1996年のグラミー賞にて最優秀ロックソング賞にノミネートされた。
また『リック・アンド・モーティ』のS02E10のエンディング曲でこの「Hurt」が採用された。
Johnny Cash Cover
ジョニー・キャッシュのアルバム『American IV: The Man Comes Around』されているHurtのカバーソング。
その完成度の高さからトレント・レズナーが絶賛!
トレント・レズナーが「もはや私の曲ではなくなった。」とこぼしてしまうほどであった。
We’re In This Together
3rdアルバム『The Fragile』(3rdアルバム/1999年)収録曲、シングルカット曲。
デヴィッド・ボウイの名曲「Heros」からインスピレーションを受けてできた曲。
バンドの中でも人気の高い曲であるのにもかかわらずあまりツアーでは演奏しない曲としても知られている。
USメインストリームロックチャートで21位を記録。
USオルタナティブエアプレイで11位を記録。
映画『アベンジャーズ』(2012年)の公式予告編映像の音楽としてこの曲が採用されていた。
Starsuckers, Inc.
3rdアルバム『The Fragile』(3rdアルバム/1999年)収録曲、シングルカット曲。
アルバムの中でもかなりヘヴィーなサウンドであり、ブレイクビーツを基調にしたリズムが特徴的。
PVが結構過激でトレント・レズナーが自身の肖像写真や像を破壊するのだが、それに加えてマイケル・スタイプ(R.E.M.)、ビリー・コーガン(The Smashing Pumpkins)、フレッド・ダースト(Limp Bizkit)などの肖像写真や像を破壊する。
またPVに出演している金髪の女性の正体はMarilyn Mansonで最後にそれが明らかになる。
USオルタナティブエアプレイで39位を記録。
2000年のグラミー賞の最優秀メタルパフォーマンス部門にノミネートされた。
Only
4thアルバム『With Teeth』(4thアルバム/2005年)収録曲、シングルカット曲。
バンドとして初めてダンスロック、ポストパンクリバイバルを意識したポップな曲調の曲。
しかしあくまでインダストリアルロックという枠組みから大きくは逸脱していない。
今ではライブの定番曲になるほど人気の楽曲。
USメインストリームロックチャートで22位を記録。
USオルタナティブエアプレイで1位を記録。
おすすめアルバム
『The Downward Spiral』(2ndアルバム/1994年)
半自伝的内容のコンセプトアルバムであり、世界にインダストリアルロックを認知させたアルバム!
トレント・レズナーは当時の90年代アメリカ社会に対する厭世観をこのアルバムで表現した。
またこのアルバムをコンセプトアルバムにしたのはピンク・フロイドの『The Wall』やデヴィッド・ボウイの『ロウ』に影響を受けてのこと。
このアルバムは大きな商業的成功を収めただけでなく、90年代においてインダストリアルロックムーブメントを引き起こすきっかけになった。
それこそ80年代のハードロックバンドはNirvanaのようなグランジ、またはこのNine Inch Nailsのようなサウンドのどちらかに寄せるようになったという。(実際にMötley Crüeはこの2バンドに寄せていた時期があった。)
USビルボードチャートで2位を記録!
ローリング・ストーン誌のThe 500 Greatest Albums of All Time(2020年改訂版)では122位にランクインした。
1995年のグラミー賞で最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞にノミネートされた!
『The Fragile』(3rdアルバム/1999年)
103分にも及んで自身の精神的脆さを表現し、全米1位を記録したアルバム!
このアルバムは2枚組の重厚な内容のアルバム。
インダストリアルロックに加えてアンビエントミュージックやエレクトロニックなどの要素も内包している。
また前回に引き続きうつ病や薬物乱用など暗いテーマを扱っているのにもかかわらず、大きな商業的成功を収めた。
だが歌詞の内容が前作よりも過度にメロドラマのようなニュアンスが含まれていることから一部メディアから否定的に取られることもあった。
USビルボードチャートで1位を記録!
1999年のグラミー賞で最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞にノミネートされた!
『With Teeth』(4thアルバム/2005年)
トレント・レズナーがドラッグ・アルコール依存症から復帰した記念すべきアルバム!
このアルバムでは今までのような過剰な激しさではなく、シンプルに洗練・削ぎ落とされたサウンドが特徴的。
ジャンルで言えばダンスロックやポストパンクのような要素を感じる。
そのためエレクトロ的な要素は薄く生の楽器を重視した音楽性になっている。
歌詞の内容も厭世観的なものは影を潜め、自身の依存症に関するものが多くなった。
この作品にはNirvanaやFoo Fightersで活躍するデイヴ・グロールがドラマーとして参加している。
USビルボードチャートで1位を記録!
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