”泣き虫ロック”と称されたパワーポップの代表格となったバンド
今どきロックのことを「不良の音楽」なんて言う人はさすがにいないだろう。
そうなった理由は2つあると思う。
一つは”反政府・反体制について歌う行為が市民権を得た”こと。
70年代以前においてはロックバンドが反政府・反体制なんて大っぴらにして歌っているとそれこそ警察や治安部隊などが出動した。
これは冗談ではない、”セックスピストルズ 逮捕”でググればわかる。
だが90年代以降になるとそのような行為が市民権を得るようになったので、誰もロックを危険な音楽だと認識しなくなっていった。
もう一つはいわゆる”陰キャによるロック”が人気を博したこと。
その代表格がイギリスだとRadiohead、そしてアメリカだと今回紹介するWeezerだろう。
クラスで目立たなそうな奴がステージに立つと一躍みんなのヒーロー!
しかも歌う内容は陽キャの真似事ではなく、陰キャのセンチメンタルな気持ちを歌い上げ世間が共感し熱狂する。
世界中の陰キャが「あんな風になりたい!」とささやかな希望を持った。
そう、Weezerはある意味革命であった。
ロックミュージシャンで根暗な人はWeezer以前にもいたかもしれないが、陰キャ・負け犬の心情を前面に押し出して世間を熱狂させたバンドはWeezerが初めてだったと思う。
そんなWeezerについて説明したいと思う。
メンバー
リヴァース・クモオ
ギターボーカルでバンドのフロントマン。
バンドの作詞・作曲はほとんど彼がしている。
ハーバード大学出身の超エリートであり、同大学の英文学の学士号を取得している。
初期の作詞・作曲で最も影響を受けたのはビーチボーイズの名盤『ペットサウンズ』であると公言している。
しかしビートルズやKISS、Jane’s Addiction、The Who、Pixies、Guns N’ Rosesなど幅広く影響を受けている。
また90年代後半はポップソングを作るオリジナルの参考書を作り、主にニルヴァーナとOasis、Green Dayを参考にしたらしい。
あとかなりの親日家。
- アルバムジャケットを浮世絵にする。
- PVに相撲部屋や日本の暴走族を登場させる。
- くまもんとコラボする。
- 全て日本語歌詞の曲をリリースする。
などあげればきりがない。
彼はライブで知り合った日本人女性、伊藤恭子さんと結婚。
この彼女の実家が熊本であったため、くまもんとコラボするに至った。
また全て日本語歌詞の曲はスコット・マーフィーとコラボした際のもの。
リヴァース&スコット名義で「HOMELY GIRL」という曲を発表した。
ブライアン・ベル
リードギタリスト。しかし曲によってはリードボーカルを担当する。
1stアルバム「Weezer (Blue Album) 」をレコーディングしている期間で、前任のジェイソン・クロッパーに変わってWeezerに加入した。
彼らのファンの間ではファッションセンスの良さで知られており、ファンからは愛情を込めて「The Sass Master」と呼ばれている。
最近ではサイドプロジェクトとしてThe Relationshipというバンドでも活動している。
スコット・シュライナー
ベーシスト、2001年よりバンドに加入。
元海兵隊所属という異色の経歴の持ち主。
しかし25歳の時に音楽の道に進もうとカリフォルニア州にあるミュージシャンズインスティテュート(MI)という営利大学に通う。
またWeezerに加入する前はヴァニラ・アイスのバックバンドに参加していた。
彼はエルビス・コステロ、ビートルズ、レッドツェッペリン、ブラックサバスのファン。
パトリック・ウィルソン
ドラマーであり、結成初期からいるメンバー。
彼が15歳の誕生日の時にヴァン・ヘイレンのコンサートに行ったことで、ドラムにのめり込むようになる。
しかし2009年からギター演奏にのめり込むようになり、ギターを弾いていることが多い。
その代わりにドラムはサポートメンバーであるJosh Freese(ジョシュ・フリース)が担当している。
おすすめ曲
Buddy Holly
1stアルバム「Weezer (Blue Album) 」収録曲、かつシングルカット曲。
曲名の「Buddy Holly(バディ・ホリー)」は50年代を代表するロック歌手のことだが、彼を称賛するような曲ではない。
当時リヴァースはアジア系の女の子と付き合っていたが、そのことをバカにされることが多かった経験からこのような曲を書いたという。
周りにバカにされようが、「僕はバディ・ホリーみたいだし、君はメアリー・タイラー・ムーアにそっくりだから、誰にバカにされようが気にしない!」と励まし合って、逆境を乗り越えようとする歌詞。
批評家人気が高くローリング・ストーン誌が選ぶ「オールタイムベストソング500」(2011年版)にて499位にランクイン!
USビルボードチャートのメインストリームロック部門で34位を記録!!
またオルタナティブエアプレイでは2位を記録した!
この曲のPV監督はスパイク・ジョーンズが担当!
MTVで人気を博し何度も放送され、1995MTVビデオミュージックアワードにて「ベストオルタナティブビデオ賞」・「ブレイクスルービデオ賞」・「ベスト編集賞」の3部門を受賞した。
Say It Ain’t So
1stアルバム「Weezer (Blue Album) 」収録曲、かつシングルカット曲。
ファン人気がかなり高い曲だが、歌詞の内容はかなりヘヴィー。
リヴァースが5歳のときに、アルコール依存症の実父が家を出ていったこと経験をもとに書かれた曲。
自宅の冷蔵庫に義父のハイネケン(ビール) を見つけた主人公の少年が、かつての実父と同様に「義父もアルコール依存症で家を出ていってしまうのではないか?」と不安に襲われる。
「そんな心配は考え過ぎだと否定して欲しい」=「Say It Ain’t So」(違うと言って)と実父に訴えかける様子が書かれたヘヴィな歌詞となっている。
ピッチフォークが選ぶ「90年代のベストトラック200」にて第10位にランクインした!
USビルボードチャートのオルタネイティブエアプレイ部門で7位を記録!!
El Scorcho
2ndアルバム『Pinkerton』収録曲、シングルカット曲。
個人的に一番好きなWeezerの楽曲。
歌詞の内容は”日系ハーフの女の子への想い”を描いたものだが、歌詞の中で日本を舞台にしたプッチーニのオペラ『蝶々夫人』についての言及がされるインテリチックなものとなっている。
『蝶々夫人』とは簡単に説明すると、没落藩士令嬢の蝶々さんとアメリカ海軍士官ピンカートンの悲劇の恋物語。
ピンカートンとはこの曲が収録されているアルバム名であり、まさしく曲の主人公と片思いの女の子のことを『蝶々夫人』の登場人物に置き換えて妄想している様子が感じ取られる。
曲そのものはかなりスローテンポでゆったりしている風だが、歌メロが良くみんなで楽しく合唱できるようなメロディになっている。
また2回目のサビが終わった後、倍速のテンポのCメロに入り、曲の主人公が感じているもどかしさや気持ちを伝えることの不安を矢継ぎ早に言いまくる。
この切羽詰まった感情の表現が好きでたまらない。
商業的にはUSビルボードチャートのオルタネイティブエアプレイ部門で17位とWeezerにしてはあまり振るわなかったが、自分はこの曲をWeezerで一番良い曲だと信じている。
Island in The Sun
3rdアルバム「Weezer (Green Album) 」収録曲、かつシングルカット曲。
かなり落ち着いた曲であり、「いやな思いなんて一切しない、太陽の光があふれる島で自由で楽しい時間を過ごしたい」という気持ちを歌った曲。
僕が初めて聞いたWeezerの曲、Weezerにハマるきっかけになった曲。
USビルボードチャートのオルタネイティブエアプレイ部門で33位を記録!!
Dope Nose
4thアルバム『Maladroit』収録曲、シングルカット曲。
アップテンポでテンションが上がるハードロックナンバー!
歌詞の内容はドラッグに関するもので、男らしく「お前が人生行き詰まっていると思うなら、俺がお前の顔をひっぱたいてやる。そしたらショーを楽しもうぜ!」と歌い上げる。
なんといってもこの曲のPVがかなり特徴的!!
日本の暴走族たちがバイクの勝負をするという内容!
特に好きなのはPVに出てくる日本人たちがアメリカ人が思い描くステレオタイプの日本人像ではなく、2000年代に多くいた日本の若者像だったこと。
「池袋ウエストゲートパーク」や「ごくせん」などが流行っていた時代の暴走族の格好なので、良く日本を研究しているなと感心してしまった。
でもカウボーイ風の謎暴走族もいたが・・・
USビルボード、オルタネイティブエアプレイにて8位にランクインした。
Beverly Hills
5thアルバム『Make Believe』収録曲、シングルカット曲。
バンドで最も商業的に成功したシングル。
ビバリーヒルズとはもちろんハリウッドにある有名人やセレブばかりが住む地域のこと。
「俺はこんな華やかな世界に行けない、行くチャンスもない」という負け犬根性を歌う一方で、「あの映画スターたちを見てみろよ。みんなめちゃくちゃ品があって穢れひとつない。メイドたちが床を磨いてるときも真ん中でゆったり陣取ってるぜ」なんてセレブを皮肉ったことも歌っている。
またこの曲のPVは世界で最も有名なパーティのメッカでもある「プレイボーイマンション」で撮影された。
(※ちなみに「プレイボーイマンション」はビバリーヒルズにはない。)
USモダンロックチャートにて1位を記録した!
おすすめアルバム
『Weezer (Blue Album)』(1stアルバム/1994年)
”ナードによるロック”という斬新なロックバンド像を世に提示した金字塔的名盤
プロデューサーは”The Cars”のフロントマン”リック・オケイセック”が担当した。
当時1994年はグランジブームが終焉し、世の中は新たな音楽を求めていた。
そんな中Weezerは陰キャの心情を吐露したパワーポップという斬新な音楽モデルを世間に提示した。
NMEやAll Musicなどの音楽批評メディアはWeezerが2000年代のメロディックエモというジャンルの形成に大きな影響を与えたと評価した。
USビルボードチャートで16位を記録した。
デビューアルバムにも関わらず商業的に大成功し、アメリカで少なくとも330万枚、全世界で1,500万枚以上を売り上げた。
ローリング・ストーン誌のThe 500 Greatest Albums of All Time(2020年改訂版)では294位にランクインした。
ピッチフォークはこのアルバムを10点中10点満点をつけた!
またピッチフォークが発表した「90年代のベストアルバム100」にて26位にランクインした。
初めてWeezerを聴く方におすすめ。
『Pinkerton』(2ndアルバム/1996年)
バンドが挫折を味わったアルバムであるのと同時に、批評家人気・日本人気に火をつけたアルバム
タイトルの「Pinkerton(ピンカートン)」とはプッチーニ作の日本が舞台のオペラ「蝶々夫人」に登場するアメリカ海軍士官ピンカートン のこと。
またアルバムジャケットも浮世絵を使用しており、かなり日本をフィーチャーした内容になっている。
デビューアルバム『Weezer (Blue Album)』の大ヒットによる周りの期待により、かなりのプレッシャーのなか本作が製作された。
だがUSビルボードチャートで19位を記録し、本人たちの満足いく結果にならなかった。
また批評家たちからも賛否両論であったため、バンドメンバー全員がショックのあまり5年間の活動休止を余儀なくされた。
しかし2000年代に活躍するJimmy Eat The WorldやSaves the Day, Dashboard Confessionalなどのエモのバンドが本作『Pinkerton』からの音楽的影響を公言。
加えてこのアルバムをきっかけに日本でもWeezerの人気に火が付いた!
このような事態をうけて音楽批評メディアは本作を再評価した。
ピッチフォークはこのアルバムを10点中10点満点をつけた!
またピッチフォークが発表した「90年代のベストアルバム100」にて53位にランクインした。
このアルバムも初めてWeezerを聴く方におすすめ。
『Make Believe』(5thアルバム/2005年)
バンド史上最もチャートアクションが良かったアルバム
本作のプロデューサーとして大物リック・ルービンが起用された!
彼のプロデュース方法はかなり独特で、リヴァースに24時間絶食させたり、10日間の瞑想コースを受けさせたりなどスピリチュアルな手法を取らせた。
そのためかどうかは確認しようがないが、今までとは違ったアレンジの曲が多く含まれている。
本作からシングルカットされた曲「Beverly Hills」や「Perfect Situation」の2つがUSモダンロックチャートで1位を取るなど曲の質も高い。
しかし今までのWeezerとは違うアプローチゆえに賛否両論を起こしたアルバムでもある。
USビルボードチャートで2位を記録した。
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